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新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を防ぐ施設の清掃と消毒〜後編〜

※本記事は、執筆時点で、米国CDC(国立疾病予防センター)、厚生労働省、日本環境感染学会、全国ビルメンテナンス協会から発信された指針や情報をもとに作成しましたが、それぞれの公的機関の是認を得ているものではありません。新型ウイルスということもあり今後も最新の情報を注視しながら、随時アップデートされていくべきものとしてお取り扱いください。本稿の情報を信頼され、標準作業を定める場合は、ご自身の責任において行っていただきますようお願いいたします。

今回は、前回の続き、「新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を防ぐ施設の清掃と消毒」の後半です。

おさらいとして、感染の確実性とだれがどこで消毒作業するかをマトリックスにして分類したものを再掲します(下表参照)。

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今回は【リスクB】から説明に入ります。

それでは、著者の栢森氏にバトンタッチします。

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クリーンクリエイターズラボ 代表
栢森 聡

【4】だれかが病気になった場合の建物や施設の清掃と消毒

リスク分類の【リスクB】感染が確実な施設の特別清掃における追加事項について示します。

前回、【リスクD】で紹介した標準的作業手順に加えて実施してください。

■病気の人が使用するエリアを閉鎖(他の人が入らないように)してください。
■外のドアや窓を開けて、エリアの空気循環を増やします。
■洗浄または消毒する前に24時間待ちます。24時間実行できない場合は、できるだけ長く待ちます。
■オフィス、バスルーム、共用エリア、タブレットなどの共有電子機器、タッチスクリーン、キーボード、リモートコントロール、ATMマシンなど、病気の人が使用したと思われるすべてのエリアを清掃して消毒します。
■病気の人が施設を訪問または使用してから7日以上経過している場合は、追加の洗浄と消毒は必要ありません。通常のクリーニングと消毒を続行します。

【5】屋外エリアの洗浄と消毒

屋外について、米国CDCでは下記のように説明しています。
■学校や公園の遊び場など屋外エリアでは、通常に定められた洗浄は必要ですが、消毒は必要ありません。
■屋外の遊び場に消毒剤をスプレーしないでください。これは、消耗品の効率的な使用という意味ではなく、一般にCOVID-19のリスクを低減することが証明されていないからです。
■手すりや遊具など、プラスチックまたは金属でできた頻繁に手で触れる面は、特に定期的に洗浄する必要があります。
■木製の表面(遊具、ベンチ、テーブル)やグラウンドカバー(根覆い、砂)の洗浄と消毒は推奨されません。
■歩道や道路は消毒しないでください。これらの表面からのCOVID-19の広がりは非常に低く、消毒は効果的ではありません。

【6】作業にあたっての注意事項

■洗浄剤と消毒剤の適切な使用についてトレーニングを受けていることが確認された清掃スタッフが、コミュニティスペースを清掃および消毒できます。
■廃棄物の扱いを含む、クリーニングプロセスのすべての作業では、使い捨ての手袋とガウンを着用してください。
■使用している洗浄・消毒製品、および飛散のリスクがあるかどうかに基づいて、追加の個人用保護具が必要になる場合があります。
■手袋とガウンは、着用者とその周辺の汚染を防ぐために慎重に取り外す必要があります。
■洗剤と水で20秒間頻繁に手を洗います。
■手袋を外した直後や、病気の人と接触した後は、必ずすぐに洗ってください。
■手指消毒剤:石鹸と水が利用できず、手が目に見えて汚れていない場合は、少なくとも60%のアルコールを含むアルコールベースの手の消毒剤を使用できます。ただし、手が目に見えて汚れている場合は、常に石鹸と水で、先に手を洗ってください。
■次のタイミングでは、追加で手を洗います。
・鼻をかんだり、咳やくしゃみをした後
・トイレ使用後
・食べる前や食べ物を準備する前
・動物やペットとの接触後
・援助を必要とする別の人(例:子ども)に日常的なケアを提供する前後

【7】雇用者(作業管理者)のための追加の考慮事項

■COVID-19の症状を認識するために、清掃、洗濯、ゴミ回収を行う労働者を教育してください。
■ウイルスに最後にさらされてから14日以内に症状が出た場合の対処方法を説明しておきます。
■清掃作業を提供する前に、作業員の安全確保に関する方針を策定し、現場のすべての清掃スタッフにトレーニングを提供します。トレーニングには、保護具をいつ使用するか、どの保護具が必要か、保護具を適切に装着、使用、および脱着する方法、保護具を適切に廃棄する方法が含まれます。
■職場で使用される洗浄剤の危険性について、確実に作業員をトレーニングします。

【8】補足解説

1. 保護具について

(一社)職業感染制御研究会のホームページに、保護具の詳細な取り扱い方法が紹介されています。

個人用防護具(PPE)の着脱の手順一覧(抜粋)

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サイトからPDFデータがダウンロードできますので、教育・トレーニングに使用されることを推奨します。

手袋とマスクについては、頻繁に使用することから、以下に説明を加えます。

◆ 手袋
手袋の素材には、天然ゴムラテックス、ニトリル、ポリ塩化ビニル、クロロプレン、ネオプレン、ポリウレタンなどさまざまな素材のものがあります。清掃現場では天然ゴムラテックスまたはニトリルが推奨されます。

①天然ゴムラテックス
比較的安価ですので、使い捨てする作業に推奨されます。ただし、人によってはアレルギーやパウダーによる擦傷で皮膚障害を起こす場合があります。

②ニトリル
耐薬品性が高いので性能面で最も望ましいものです。

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◆ マスク
通常作業では、サージカルマスク(不織布マスク)が推奨されます。感染者に近接する場合はN95マスクが推奨されます。

①N95マスク
ウイルスよりも小さいものを防ぐために作られているN95規格に沿ったフィルターを使用しているマスクです。息苦しく感じることもあります。

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② サージカルマスク(不織布マスク)
医療用に使用されるマスクを指しますが、ドラッグストアなどで入手できるマスクもフィルター構造は同様です。着用者側からの呼気に含まれる微生物の遮断と、外部から直接飛沫を浴びる場合にある程度の防御に使用できます。不自然な形で折りたたんだり、洗ったりすると、このフィルター構造が破壊され、効果がなくなってしまいます。ゆえに、一度外したマスクは再使用しないというのが基本です。

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2. 消毒剤について

過去の調査から、インフルエンザウイルスやコロナウイルスのようなエンベロープ(脂質)で覆われたウイルスに効果の高い消毒剤として、消毒用エタノール、次亜塩素酸ナトリウム、ボドビンヨード、加速化過酸化水素製剤(AHP)などが知られています。

そのなかで、手指消毒用および環境清掃用には次のものが適しています。

・手指消毒用=消毒用エタノール/ボドビンヨード
・環境清掃用=次亜塩素酸ナトリウム/加速化過酸化水素製剤(AHP)/消毒用エタノール

◆ 留意事項
①次亜塩素酸ナトリウム
臭気や金属腐食の課題、薬剤が時間とともに劣化する課題、洗浄力に乏しい面があるため、換気、対象面の選択(手指消毒には使用できません)、使用の都度に希釈する、汚れている対象面はキレイに洗浄してから消毒するなどの取り扱いに注意が必要です。

【次亜塩素酸ナトリウム水溶液(ブリーチ)の作り方】
次亜塩素酸ナトリウム溶液500mlを作る
◎濃度0.05%(500ppm)
 次亜塩素酸ナトリウム溶液5ml+水495ml
◎濃度0.1%(1,000ppm)
 次亜塩素酸ナトリウム溶液10ml+水490ml

(注)ここでいう次亜塩素酸ナトリウム溶液は市販されているハイター(塩素系:花王(株))などの原液(5~6%濃度)を使用することを前提としています。なお、ハイターの商品付属の蓋に入る量は25mlと言われています。

②消毒用エタノール
手指消毒用に適していますが、揮発しやすいため十分な量を使用する必要があります。また手荒れしやすいので、ハンドクリームの併用をお勧めします。

③ 加速化過酸化水素(AHP)
米国EPAに登録され、欧米ではかなり普及しています。日本では、特定のメーカーが輸入販売を行っています。消毒剤として幅広いウイルスや雑菌の消毒に極めて高い効果を有するうえ、洗浄力にも優れていて、臭いも抑えられており、水希釈後も比較的安定なため、病院を中心に急速に普及しています

④その他
米国CDCでは、EPA登録製品が推奨されています。

詳細は下記をご覧ください(英文)。

日本の薬剤メーカー各社の製品性能については、各メーカーにお問い合わせください。

3. 参考情報(洗剤類及びアルコールの消毒効果)

消毒用アルコール製剤は品薄状態が続いていますので、他の界面活性剤主体の洗剤や洗浄剤の適用に関して情報提供しておきます。

① 界面活性剤をぬるま湯に溶かしたもの(台所用合成洗剤*1として濃度0.5%以上)がSARSコロナウイルスの消毒薬として推奨されるとの報告があります。

② 2020年4月17日、北里大学大村智記念研究所ウイルス感染制御学研究室Ⅰ 片山和彦教授らの研究グループから、「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)不活化効果について」という論文が提出されました。これは、市場に流通している医薬部外品・雑貨のうち、主にエタノール、界面活性剤成分を含有し、新型コロナウイルスの消毒効果が期待できる市販製品を対象に、新型コロナウイルス不活化※2効果を有する可能性について、試験管内でのウイルス不活化評価を実施しています。それによると、市販の洗剤でも新型コロナウイルスへの消毒効果が期待できるようです。

③また同論文では、水道水で濃度を調整した10%、30%、50%、70%、90%のエタノールの不活化効果も調査しており、50%〜90%のエタノールに不活化効果が確認されたので、新型コロナウイルスの汚染が懸念される手指や硬質表面の洗浄のほか、日常使用する衣類やリネン類の洗浄などに活用が期待できるようです。

詳細は、下記を参照してください。

(*1)詳細は、2003年12月18日感染症情報センターから提供された「SARSに関する消毒(三訂版)」参照

(*2)不活化とは
不活化とは、微生物などの病原体を薬剤などで死滅させる(感染性を失わせる)ことをいいます。インフルエンザウイルスは加熱、アルコールなどの薬剤で不活化できます。また、ph6以下で不安定となり、ph3以下では不活化されます。
加熱による不活化に関して、インフルエンザウイルスは60℃なら30分の加熱で不活化されますが、加熱温度が高くなれば不活化に必要な時間はさらに短くなります。WHOでは食品の内部温度が70℃になるよう加熱することを推奨しています。

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ビルメンのための消毒作業マニュアル作成の手引き 全文

さて、ここからは再び、ビルクリ編集部の比地岡がお届けします。

前半、後半と書いてきた内容にプラスアルファしたものが、以下のサイトからPDFデータをダウンロードすることができます。

この機会にご活用ください。

最後に、参考文献を紹介したいと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございました!

参考文献

・厚生労働省「高齢者介護施設における感染対策マニュアル改訂版」(平成30年度)
https://www.mhlw.go.jp/content/000500646.pdf

・日本環境感染学会「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第2版改訂版(ver.2.1)」(2020年3月10日)
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide2.1.pdf

・日本環境感染学会「医療機関における新型コロナウイルス感染症への対応ガイド第3版」(2020年5月7日)
http://www.kankyokansen.org/uploads/uploads/files/jsipc/COVID-19_taioguide3.pdf

・厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策本部「新型コロナウイルス感染症の軽症者等の宿泊療養マニュアル」(2020年4月2日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000618526.pdf

・全国ビルメンテナンス協会「新型コロナウイルス感染症対策を踏まえた宿泊施設の清掃等マニュアル」(2020年4月27日)
https://www.j-bma.or.jp/notice/28473

・厚生労働省「感染対策の基礎知識」
https://www.mhlw.go.jp/content/000501120.pdf

・米国CDC(国立疾病予防センター)「Cleaning and Disinfecting your Facility(施設の清掃と消毒)」
https://www.cdc.gov/coronavirus/2019-ncov/community/disinfecting-building-facility.html

・米国CDC(国立疾病予防センター)「List N: Disinfectants for Use Against SARS-CoV-2(SARS-CoV-2に対して使用する消毒剤のリスト)」
https://www.epa.gov/pesticide-registration/list-n-disinfectants-use-against-sars-cov-2

・職業感染制御研究会「安全器材と個人用防護具」
https://www.safety.jrgoicp.org/download.html

・厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡「N95マスクの例外的取扱いについて」(2020年4月10日) https://www.mhlw.go.jp/content/000621007.pdf

・厚生労働省新型コロナウイルス感染症対策推進本部事務連絡「サージカルマスク、⻑袖ガウン、ゴーグル及びフェイスシールドの例外的取扱いについて」(2020年4月14日)
https://www.mhlw.go.jp/content/000622132.pdf

・日本の研究.com「医薬部外品および雑貨の新型コロナウイルス (SARS-CoV-2)不活化効果について」
https://research-er.jp/articles/view/88171

著者プロフィール:月刊『ビルクリーニング』編集部

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月刊『ビルクリーニング』編集部
株式会社クリーンシステム科学研究所

http://www.cleansys.co.jp/

1988年7月、ビル清掃業界で唯一の専門雑誌『ビルクリーニング』。毎月、実際の清掃現場を取材し、「清掃スタッフのための技術情報マガジン」として現場情報や使用資機材紹介、スタッフ教育に欠かせない危険予知訓練、現場責任者を育成するマネジメント講座など、他にも清掃業界の最新トピックスを発信中!

近年は、オフィスビルなどを中心に導入が進んでいる清掃ロボットやICT・IoTを活用した事例も追い、業務の省力化・効率化についての記事掲載も行っている。

今回執筆:編集チーフ 比地岡 貴世
二十歳から編集プロダクションで雑誌制作の下請け業務をこなし、2015年4月にクリーンシステム科学研究所に入社。当時は、清掃業の経験や知識などは皆無だったが、この5年間で100以上のビルメンテナンス企業、クリーンクルー、清掃現場を取材し、月刊『ビルクリーニング』制作の実務を担当。

著者プロフィール:栢森 聡

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栢森 聡
クリーンクリエイターズラボ 代表

業務用洗浄剤・資機材などの総合メーカーにて、15年以上にわたりプレーイング&マネジャーとして、研究とマーケティングの両面から商品開発を行い、施設管理用の商品や清掃システムを導入。その間、日本フロアーポリッシュ工業会の技術委員長を4年務め、表面洗剤の規格化などを実現。中立的立場で、現場に適した清掃を実現する新たな価値提案を行うことにより「清掃のファン」を増やしたいとの想いから独立し、2020年コンサルティング事業を主とする同社を設立。清掃と衛生管理の「なぜ?」を解説することに力を注いでいる。
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新型コロナにより施設清掃はガラリと変わり、アフターコロナ時代には全く異なるレベルで施設の清潔さが求められるのではないだろうか。世界中の施設が「清掃のニュー・ノーマル=新しい清掃標準」を模索している。「アフターコロナの施設清掃」に向け、世界の事例、専門家の科学的考察を紹介していく。